ホテル業界が抱える7つの経営課題|現状と課題解決のアイデア・成功事例を紹介

ホテル業界が抱える7つの経営課題|
現状と課題解決のアイデア・成功事例を紹介

コロナウイルスの影響で一時的に宿泊施設の需要が低迷しましたが、現在は回復傾向にあります。
しかし、ホテル業界が以前から抱えている課題が解決したわけではありません。インバウンドを含め、観光需要が戻りつつある今が、それぞれのホテルが抱えている課題への対策に取り組む時期なのではないでしょうか。

この記事では、ホテル業界が抱える今後の課題について解説していきます。
課題解決へのアイデアや実際の成功事例も併せてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

ホテル業界の現状

今後の課題について考える前に、まずはホテル業界の現状を把握しておきましょう。
各ホテルの売上に直結する宿泊者数について、2022年に内閣府経済社会総合研究所が発表した研究データがあります。

ホテル業界の現状
 

「2019年から2020年における延べ宿泊者数の推移」によると、国内で初めて感染者が確認された2020年1月を境に、各宿泊施設の宿泊者数が急激に落ち込んでいます。特に顕著なのが2020年5月で、旅館、リゾートホテル、ビジネスホテル、シティホテルのいずれの施設でも、調査期間中で宿泊者数が最も少ない時期となっています。
しかし、現在はコロナ禍の収束や観光需要の回復により、宿泊者数も増加傾向にあります。 観光庁が行った「宿泊旅行統計調査」では、2023年の延べ宿泊者数は全体で6億1,747万人(前年比+37.1%)、そのうち日本人延べ宿泊者数は4億9,972万人(前年比+15.2%、外国人延べ宿泊者数は1億1,775万人(前年比+613.5%)と大きく回復しており、ホテル業界に将来性があることが分かります。

ホテル業界が抱える7つの課題

ホテル業界が抱える7つの課題

「宿泊施設の需要減少」という課題は解決に進んでいるのが現状ですが、ホテル経営を行っていると、それ以外にもさまざまな課題と向き合わなければなりません。 ここでは、ホテル業界が抱える7つの経営課題を紹介します。

人手不足が深刻化している

少子高齢化や人口減少が影響し、多くの業界で人手不足が社会課題となっています。中でもホテル業界の人手不足は深刻といわれており、その背景にコロナ下での人員削減や離職率の高さなどが挙げられます。
2024年11月に公表された帝国データバンクの調査によれば、ホテル業界における正社員の人手不足割合は62.9%で第6位です。非正社員の人手不足割合に至っては、60.9%で第2位という結果になっています。 宿泊施設のゲスト数が増加しても、十分に対応できるだけの人手が無かったら本末転倒です。ホテル業界では早急に人手不足を補う対策が必要でしょう。

収益性が低い

ホテル業界は、ほかの業種に比べると経営コストが高く、収益性が低いといわれています。 ホテル経営で必要な経費には「固定費」と「変動費」の2種類がありますが、このうち固定費は売上や宿泊客数とは関係なく必ず発生するものです。例えば、地代家賃・水道光熱費・人件費・設備投資費などが固定費に挙げられます。
経営を安定させようとするあまり、経費を削減しすぎるとサービス低下による宿泊客の減少にもつながりかねません。そのため、収益性を上げることが大きな課題となります。

グローバル対応が遅れている

国内のホテル業界は、グローバル対応が遅れているのが現状です。国土交通省の調査によると、2024年6月の訪日外国人旅行者数は約314万人で、単月としては過去最高の数値が出ています。
この結果からも、観光地としての日本のインバウンド需要は非常に高いことが分かります。しかしながら実際のホテルでは、外国人ゲストのニーズに応えられる十分な対応ができていません。 例えば、スタッフや案内板、メニューへの多言語対応ができていないこと、食事やマナー、宗教上の慣習などの異文化理解ができていないことが挙げられます。

景気や社会情勢に左右されやすい

内閣府の「新型コロナウイルス感染症が 宿泊業に与えた影響に関する研究」でも明らかにされたように、ホテル業界は社会情勢やシーズンの影響を大きく受ける業種です。事実、ホテル業界を含む新型コロナウイルス関連倒産は、2020年2月から1年半で2000件も確認されています。またコロナ以外にも、予期せぬ災害や悪天候が原因で宿泊キャンセルが多発する可能性もゼロではありません。
それ以前に、社会情勢や景気が大きく変動せずとも、閑散期には宿泊客数が大きく減少することがあります。収益性の低さと同時に、宿泊客数の安定性がないこともクリアしなければならない問題です。

アナログな業務が多い

近年、あらゆる業種において業務のデジタル化が進んでいます。しかしながら、ホテル業界はアナログな業務が多いのが現状です。
ホテルの業務は、客室清掃やベッドメイキング、調理、館内警備、ゲストの誘導など、人の手を必要とする業務が多く、完全にデジタル化すること困難です。また、日本の伝統としておもてなし精神が根付いているため、アナログな手法でサービス提供した方が良いと考えるホテルも少なくありません。
深刻な人手不足が課題となっている上にアナログな業務が多いというのは、スタッフ一人ひとりの負担が大きいことをも意味します。スタッフへの負担増で離職率が高くなると、さらなる人手不足を招き、悪循環に陥る恐れがあるため、早急な対策が必要です。

宿泊施設の老朽化が進んでいる

ゲストの立場からすると、外観の良し悪しがホテルを決めるポイントになることもあるでしょう。特に、観光や保養を目的としたリゾートホテルでは、おしゃれな施設が好まれる傾向にあります。
その反面、宿泊施設の老朽化が進んでいることがホテル業界の課題の一つになっています。日本では、1980年代に宿泊施設の需要が急増し、それに伴い建設されたホテルが数多く存在します。建物にはそれぞれ耐用年数が定められており、旅館やホテルに関しては、木造・合成樹脂造が17年、鉄骨鉄筋コンクリートが31年(もしくは39年)、れんが造・石造・ブロック造が36年です。
ホテルや旅館の改修や修繕を行うにはまとまった資金が必要になるため、計画的な資金調達も課題となります。

競合が増加している

ホテル業界の今後の課題として無視できないのが、増加する競合への対処です。 近年、ホテルや旅館など従来の宿泊施設ではなく、民宿やペンション、ゲストハウスなど小規模な宿泊施設に注目が集まっています。また、グランピングなどの新しい宿泊スタイルも競合となり得るでしょう。
Z世代(18~26歳)では、個性的な宿泊施設が多いことやコストパフォーマンスの高さ、アットホームな雰囲気などから、ホテルよりも民宿を希望する傾向が見られます。
民宿が好まれる理由などを分析し、競合に対抗しうるサービス展開をしていくことも視野に入れましょう。

ホテルの経営課題への対策

ホテルの経営課題への対策

前項で挙げたように、ホテルが抱える課題は非常に多く、どれも解決する必要のあるものばかりです。ここでは、ホテルの経営課題を解決するアイデアやポイント、注意点を紹介します。

労働環境を改善する

自社ホテルや旅館の人材不足を解決する方法として、労働環境の見直しが挙げられます。スタッフの業務負担が大きくなったり、定着率が下がったりしてサービス品質が低くなると、ゲストの満足度にも悪影響を及ぼしかねません。ゲストに快適なサービスを提供するためには、スタッフの働く環境を快適に整える必要があります。
残業や長時間労働を減らし、休みをしっかり取れる体制を整えることで、スタッフの肉体的・精神的負担軽減につながります。やむを得ず残業をする場合も、時間外労働分の割増賃金を支払うなど労働基準法にのっとった対応をすることが大切です。

DX推進に取り組む

DX推進に取り組むことは、スタッフの業務負担軽減に有効です。予約の受け付けやフロント業務、一部の清掃業務など、アナログでなくても可能な業務は、できる限りデジタル化を検討しましょう。アナログな業務を最小限にしておけば、急な需要増大や需要減少にも柔軟な対処が可能です。
業務のDX推進は社会課題の解決にもつながるため、DX推進助成金などの補助金制度も充実しています。デジタル機器やITツールの導入に際する資金調達に悩んでいる経営者の方は、利用を検討してみてください。

宿泊単価や客室稼働率を上げる施策を行う

宿泊施設の収益性を高めるには、宿泊単価や客室稼働率を上げる施策が必要です。とはいえ、単に客室の販売単価を上げるだけでは、ゲスト離れが起こる可能性があるので、相応の付加価値を付けることが大切です。宿泊施設に付加価値を付けることは、客室稼働率を効果的に向上させ、競合との差別化にも役立ちます。付加価値を付けるには、例えば次のような施策が挙げられます。

  • 宿泊施設で開催するイベントの充実化
  • 特産品や無農薬野菜などの食材を用いたメニューの提供
  • テレワークプランの導入
  • 競合にはない独自のコンセプトを設定
  • 自然環境や地域性を活かした体験プログラムの提供

施策を行うに当たり、宿泊施設のターゲット層を絞り込むことをおすすめします。

 
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自社HPやSNSを活用する

多くの人がインターネットやSNSから情報収集を行う現代では、宿泊施設を選ぶ際にWebサイトやSNSが決め手になることも珍しくありません。
そのため、自社HPやSNSをうまく活用すれば、自社ホテルの認知度の向上や新規ゲスト・リピーターの獲得が可能です。
ただし、他社ホテルや競合施設もHPやSNSを活用したマーケティングを行っていることを踏まえる必要があります。その上で、自社ホテルにしかない強みを押し出すこと、ターゲットに合った情報発信を行うことが重要です。文章以外にも画像や動画を取り入れるなどして、自社ホテルの魅力がターゲットに伝わるようにSNSを活用しましょう。

インバウンド対策を行う

ホテル業界の将来性は、インバウンド需要の増加と深い関係があります。外国人ゲストに利用してもらえるホテルを目指すなら、インバウンド対策は必須です。英語はもちろん、第二言語や第三言語など多言語対応のできるスタッフは積極的に採用しましょう。
また、言葉が通じなければそもそも予約をしてもらえないため、自社HPやSNS、予約システムに多言語化ソリューションを導入することをおすすめします。
ホテル内においては、案内板やメニュー、チェックインシステムの多言語化が求められます。客室に多言語対応のタブレットを設置すると、施設案内や観光情報、ルームサービスなどが一括で行えるため、スタッフの業務負担軽減にも効果的です。

 
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ホテルの経営課題を解決した事例

ホテルの経営課題を解決した事例

DX導入によりホテルの経営課題を解決した事例は少なくありません。ここでは、実際に宿泊予約システムやフロント業務のDX化で経営課題を解決した事例を2つ紹介します。

宿泊予約システムの見直しで自社HPの予約比率が2倍に『二ツ島観光ホテル様』

茨城県北茨城市に所在する二ツ島観光ホテル様は、全12室の客室から海と二ツ島が望める温泉旅館です。同旅館は、宿泊予約システムでの画面遷移の多さが予約成立の妨げになっていることを問題視していました。加えて、自社HPに検索パネルが表示できないことから、宿泊予約システムへの誘導が困難なことも課題としていました。
そこで、コストパフォーマンスが高い宿泊予約システム「Direct In S4」を導入。以前使用していた宿泊予約システムと比較すると、予約成立までの画面遷移が少なくなり、SNSアカウントでログインした場合はさらに手間が省けるようになりました。また、検索パネルをHPの各ページに設置できるようになるなど、ゲストが快適に利用できる仕様に整えられています。「Direct In S4」導入後、自社HPからの予約比率が2倍に増えるという大きなメリットが得られました。

事前チェックインと客室精算の導入でフロントの業務DXを推進『TOWAピュアコテージ様』

栃木県の那須高原にあり、多彩な客室を有するTOWAピュアコテージ様は、那須ハイランドパークのオフィシャルホテルです。同ホテルはチェックイン・チェックアウトが集中するときに1時間以上ゲストを待たせてしてしまうこと、増築による客室増加で運用がままならないこと、売掛の処理やOTA連携ができないことを課題としていました。
そこで、ホテル管理システム(PMS)の「Dynalution」を導入し、フロント業務のDX化を推進。LINE連携システム「D-Lipeat(ディーリピート)」、事前チェックイン、客室清算の3つの機能を活用し、ゲストの待ち時間を大幅に削減しています。
中でも事前チェックインの利用率は約38%と高く、そのほかの取り組みもあいまって1日180分程度の時間削減に成功しました。

業務の見直しやツール導入でホテルの経営課題を解決しよう

今回は、ホテル業界が抱える今後の課題のほか、課題解決へのアイデアや実際の成功事例を紹介しました。
ホテル業界はインバウンド需要の増加により将来性がある業種ですが、さまざまな経営課題を抱えているのが現状です。とはいえ、具体策が明確なので、課題を解決することは不可能ではありません。他業種でも課題に挙がりやすい人手不足やスタッフの業務負担増などは、業務の見直しやITツールを導入し、業務効率化を進めることで解決できます。宿泊施設向けのITツールにはさまざまな種類があるため、自社ホテルの課題に合ったものを選択することが重要です。
例えば、予約管理やゲスト管理など管理業務を効率化するならPMS、自社HPでの集客や予約業務を効率化するなら宿泊予約システムの導入を検討しましょう。

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