無人ホテルのメリットや注意点は?無人化に必要なシステムや運営ポイントを解説

無人ホテルのメリットや注意点は?
無人化に必要なシステムや運営ポイントを解説

無人ホテルとは、フロントやロビーにスタッフが常駐していないホテルのことです。実際には完全に無人ではありませんが、従来スタッフが行っていた業務が減るため、人件費を抑えられるホテル形態として注目されています。また、ゲストとスタッフの接触を極力減らすことで、感染症対策にもなります。
この記事では、無人ホテルのメリットや注意点、無人化に必要なシステム、運営ポイントを紹介します。

無人ホテルとは?

無人ホテルとは、文字通り無人化されたホテルのことです。無人ホテルでは、さまざまなITシステムを活用し、従来人の手で行っていたフロント業務を非対面・非接触で行います。エントランスやフロントにスタッフが常駐しておらず、受付に設置されている端末をゲストが操作し、チェックインの手続きができるような仕組みです。

無人ホテルと一言でいっても運営形態はさまざまです。多くの無人ホテルでは、施設内や周辺にスタッフが待機しており、緊急時に対応できるようになっています。無人ホテルといっても、スタッフが誰もいないわけではなく、客室清掃やベッドメイキングは人の手で行う必要があります。

ホテル側:無人ホテルのメリット

ホテル側:無人ホテルのメリット

ホテルの無人化は、ホテル側に多くのメリットをもたらします。まずは、無人ホテルはホテル運営者やスタッフにどんなメリットがあるのかを紹介します。

人件費の削減・人手不足の解消

多くの無人ホテルでは、フロント業務やチェックイン業務を無人で行っています。兼ねてからホテル業界では人手不足が問題視されてきましたが、フロント業務を廃止することで、少ない人数でも運営が可能になります。

スタッフを雇用すると、その分人件費がかかりますが、無人化することで必要なスタッフ数が減らせるため、人件費の削減にもつながります。削減した人件費を、宿泊料金の引き下げや、設備の充実に充てることで、ホテルの需要を高めることが可能です。

また、宿泊施設は季節的な要因や社会情勢、景気などで需要が増減します。そのため、需要の多い時期は人手不足に、少ない時期は人手が余るといったケースが見られ、スタッフの勤務時間が安定しないという問題が生じていました。無人ホテルであれば、需要の増減とは関係なくスムーズな運営ができ、スタッフも安心して働くことができます。

感染症対策

新型コロナウイルス感染症の影響で、宿泊施設をはじめ多くの業種で非対面・非接触のサービスが求められるようになりました。

無人ホテルはフロントにスタッフを配置しないため、ゲストとスタッフが接触する機会がほとんどありません。これにより、接客で生じる感染リスクを避けることができます。さらに、アルコール消毒や清掃など有人ホテルで必要な感染症対策が省略できるため、経費の削減にもなります。

業務効率化・ヒューマンエラー予防

従来のフロント業務はアナログな手法で行われることが多く、スタッフの能力によってチェックイン完了までの時間に差が生じる傾向にありました。
無人ホテルでは予約管理からチェックイン、鍵の受け渡し、宿泊料金の精算まで、あらゆる業務をコンピューターやロボットが行います。チェックインやチェックアウトにかかる時間短縮が実現できるため、ゲストを長時間待たせる心配がありません。

フロント業務には細かな作業が多く、ベテランのスタッフであってもミスをしないとは限りません。宿泊施設では小さなミスが大きなトラブルにつながることがあるため、ミスを未然に防ぐことが大切です。
無人ホテルでは、煩雑なフロント業務がデジタル化されるため、有人ホテルにおける最大のデメリットであるヒューマンエラーのリスクを減らすことができます。

ゲスト側:無人ホテルのメリット

ゲスト側:無人ホテルのメリット

ホテルの無人化は、ホテル側だけではなく、ゲスト側にもさまざまなメリットをもたらします。続いて、無人ホテルがゲスト側に与えるメリットを紹介します。

チェックイン・チェックアウトの手間が減る

チェックインをはじめとする宿泊手続きの手間が減ることにより、ゲストにとって時間を有効に使えるようになるのは、大きなメリットです。

有人ホテルでは、宿泊手続きの際、ゲストはフロントに並んでスタッフの対応を待つことになります。宿泊者名簿に名前を記入したり、鍵を受け取ったりする必要があり、面倒だと感じるゲストも少なくありません。繁忙期や混雑する時間帯はゲストが集中しやすく、普段よりもさらに時間がかかってしまうこともあります。

一方、無人ホテルでは、フロントに専用の端末が設置されており、ゲストがスマートフォンのQRコードをかざすだけでチェックインが可能です。宿泊手続きがスムーズに終わるため、フロントに並ぶこともなく、ゲストの待ち時間を短縮できます。

スマートフォンによるチェックインは「セルフチェックイン」「スマートチェックイン」と呼ばれており、システムによっては、ホテルに到着する前にチェックインを済ませることも可能です。ゲストは、端末から発行されるカードキーや暗証番号キーを受け取るだけで客室に入ることができます。

※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

スタッフに顔を合わせずに滞在できる

無人化したホテルでは、ゲストがスタッフと顔を合わせずに滞在することができます。 これまで、日本の宿泊施設では「おもてなしの精神」が重視され、対面でのサービスを優先する施設が少なくありませんでした。しかし、「一人時間」を大切にする人が増えている昨今では、必ずしも対面でのサービスが喜ばれるとは限りません。スタッフとのやり取りが煩わしいと感じるゲストもいれば、極力スタッフと会わずに過ごしたいと考えるゲストもいるでしょう。

無人ホテルは、一人時間を大切にするゲストや、友人や家族との時間を楽しみたいゲストに居心地の良さを提供することができます。

無人ホテルにするために必要なツール・システム

無人ホテルにするために必要なツール・システム

ホテルを無人化するに当たり、いくつかのツールやシステムが必要です。中でも「セルフチェックインシステム」「スマートロック」「ホテル管理システム(PMS)」の3つは、無人ホテルの運営に欠かせません。

続いて、上記のツール・システムが無人ホテルに必要な理由や機能を解説します。

セルフチェックインシステム

セルフチェックインシステムは、ゲストがフロントに設置された専用端末や自身のスマートフォンを操作してチェックインできるシステムです。


■セルフチェックインシステムの主な機能
  • ゲスト名簿の自動作成
  • 写真撮影による本人確認
  • ビデオ通話による本人確認
  • 画面表示や音声ガイドの多言語切り替え
  • 予約管理(予約の確認、利用明細、ゲスト登録など)

セルフチェックインシステムは、無人フロント、無人チェックインに不可欠なので、ホテルを無人化する際には導入が必要です。

スマートロック

スマートロックは、ゲストが予約した際、あるいはセルフチェックインを行った際に発行される暗証番号を入力することで、客室のロックが解除されるシステムです。物理キー(鍵やカードキー)を必要としないため、フロントでの鍵の受け渡し業務が省略できます。

スマートロックを導入すれば、無人フロントを実現できるだけでなく、鍵を持ち歩くことによる紛失や盗難などのリスクを防ぐことができます。また、スマートロックはシステム上で鍵の一元管理が可能なので、全客室のロック状態を把握できる点も大きなメリットです。


■スマートロックの主な機能
  • 暗証番号やスマートフォンによる解錠
  • オートロックによるセキュリティ強化
  • 暗証番号に有効期限を付与
  • 客室の解錠記録の取得
  • 入室権限の付与、解除

スマートロックは、遠隔からでも鍵の管理ができるため、宿泊施設のバックオフィスや離れた場所でスタッフが待機する場合に便利なシステムです。

ホテル管理システム(PMS)

ホテル管理システム(PMS)は、Property Management System(プロパティ・マネジメント・システム)の略で、宿泊施設における予約管理や会計・経理などのフロント業務を一元管理できるシステムです。予約サイト(自社用の宿泊予約システムやOTA)の予約管理を行うサイトコントローラーと連携することで、予約情報をもとにした客室アサイン(部屋割りの自動化)が可能になります。


■ホテル管理システム(PMS)の主な機能
  • 予約情報や過去予約の記録管理
  • チェックイン、チェックアウトの状況確認
  • 予約情報をもとにした名簿作成
  • 施設内のレストランや売店などでの会計情報取得
  • リピーター管理(趣味嗜好の把握や利用履歴など)
  • 売上情報のCSV出力や売上分析

導入するツールによっては、チェックアウトや宿泊料金の精算もスマートフォンから行うことが可能です。宿泊施設にとっても、ゲストにとってもメリットの多いシステムなので、ホテルを無人化する際は導入を検討しましょう。

ホテル無人化で注意すべきポイント

ホテル無人化で注意すべきポイント

ホテルを無人化にする際は、旅館業法に違反しない運営体制を取る必要があります。旅館業法とは、宿泊施設に関する法律で、観光ホテルや旅館、ビジネスホテル、民宿、ペンション、ゲストハウスなどに適用されるものです。

最後に、旅館業法の観点から、無人ホテルの運営において注意すべきポイントを3つご紹介します。

旅館業法や地域条例の確認

無人ホテルの開設に当たり、まずは旅館業法の内容を把握しましょう。 そもそも、無人フロントや無人チェックインは旅館業法に違反するのではないか、と不安に思う方もいるかもしれません。

フロントについて、旅館業法では以下のように規定されています。

「宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有すること。」


玄関帳場とはフロントのことを指しますが、必ずしも人の手で行わなければならないという規定はありません。また、平成30年に旅館業法の一部が緩和され、玄関帳場の基準について、下記のように改定されました。

「厚生労働省令で定める基準を満たす設備(ビデオカメラによる顔認証による本人確認機能等のICT設備を想定)を、玄関帳場等に代替する機能を有する設備として認めることとする。」


上記2つの内容からも、フロント業務やゲストの本人確認さえ適切に行えれば、ICT設備で代替することが認められると判断できます。

ただし、地域によっては独自の条例(上乗せ条例)が設けられている場合があり、旅館業法よりも厳しい基準になっていることがあります。無人ホテルの運営では、上乗せ条例も遵守する必要があるため、事前に管轄の保健所で確認を取ってください。

宿泊者情報の確認や鍵の受け渡し

無人ホテルでは、宿泊者情報の確認や鍵の受け渡しについても注意すべき点があります。

「宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること。」


「営業者は、厚生労働省令で定めるところにより旅館業の施設その他の厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、連絡先その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があつたときは、これを提出しなければならない。」


旅館業法では、宿泊者名簿を備え、ゲストの個人情報を記載することが規定されています。しかし、名簿は紙媒体に限定されているわけではないため、セルフチェックインシステムで代替することが可能です。

規制緩和により、鍵の受け渡しが適切に行える設備を設ければ、施設内にスタッフを常駐させる必要はなくなりました。ただし、ゲストの本人確認は鮮明な画像で行うこと、宿泊施設内にビデオカメラなどを設置して入退室状況を常時監視することが要件となります。

緊急時の対応

無人ホテルはスタッフが常駐しないため、防犯面にデメリットが生じることが懸念されます。緊急時の対応については、以下の法令が基準です。

「事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。」


上記の法令を遵守するため、多くの無人ホテルでは共有部分に防犯カメラを設置しています。そのほか、エントランスをオートロックにする、警報機能付きのスマートロックを導入するなどの防犯措置も有効です。

また、宿泊施設の事業者やスタッフ、警備員などがおおむね10分程度で駆け付けられる体制であることが望ましいとされています。緊急時に早急な対応ができるよう、設備と人材配置の両面で対策を講じましょう。

※参考:簡易宿所におけるフロント・駆け付け義務解消を 通じた宿泊施設の人手不足解消に向けて
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/240419/local01_01.pdf

ツールやシステムを導入して、安心・安全な無人ホテルに

今回は、無人ホテルのメリットや注意点、無人化に必要なシステム、運営ポイントをお伝えしました。

ホテルの無人化は、従来のホテルでは得られない多数のメリットをホテル側にもゲスト側にも与えてくれます。その反面、スタッフが常駐しないことから防犯面のデメリットが生じかねない点には十分注意が必要です。ゲストが安心・安全にホテルを利用できるよう、法令を遵守し、不審者の侵入などを未然に防ぐことが求められます。

安心・安全な無人ホテルの実現には、専用ツールやITシステムの導入が欠かせません。無人ホテルの経営を考えている方は、「セルフチェックインシステム」「スマートロック」「ホテル管理システム(PMS)」など適切なシステムを選定しましょう。

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